銅版画の刷りについて

1 銅版画のプレス機です。なじみがないと思いますが、こんな感じです。貰い物ですが、そこそこ大事に使っています。

大きさはだいたい高さ400×横1000×奥行き500(mm)くらいです。

プレス機のサイズとしては中型かそれよりちょっと小さいくらいです。ちょっと古いのでガタがきているのですが、なんとか耐えてくれないと困ります。10マンくらいしますので。

2 プレス機の横から見た断面図。プレス機の使い方は、鉄板上に銅版画を置き、その上に紙をのせて、ローラーとのクッションのために布を挟んで刷ります。手前にある手すりを回転させてローラーを回します。

3 銅版画は基本的に、銅版を置いてその上に紙をのせます。木版やリトグラフなんかは、紙を下にひき、そこに版を置いて刷ります。その辺は銅板と木版・リトグラフの違いでもあります。

銅版画の刷りはプレス圧が強く、紙に凹凸ができるのですが、その端の凹みを「プレートマーク」といいます。銅版画をしっかりと学んだ人はプレートマークをきっちり処理しています。

 

4 銅版と銅版画を横から見たときの断面図。銅版画は凹版といって、版に溝をつくり、溝にインクを詰めて紙に付着させる版種です。その逆は木版で、凸版といいます。溝の中にインクを詰めて、プレス機を通すことでそこに詰まったインクがそのまま紙に付着します。そのため、紙の上にもっこりとインクが盛り上がるように付着されます。エングレーヴィングは線の溝が深いので、インクの盛り上がりは銅版画技法の中でも顕著です。紙幣の表面を触ると独特な触り心地を感じると思うのですが、その原因はこのインクの盛り上がりです。手触りでわかるほど盛り上がったインクは、デジタル印刷では再現できません。そのため偽造がしずらく、紙幣や切手などの最高級印刷物に用いられています。インクが盛り上がるほどに付着しているので、ものすごい耐久性もあります。手でこすろうが線が途切れることはまずありません。

 

5 エングレーヴィングの銅版画を横から見たときの断面。私の銅版画はすべてエングレーヴィング技法で制作しているのですが、なぜエングレーヴィング技法なのか。エングレーヴィングは銅版画技法の中でも最古の技法で、最も単純な、わかりやすい方法で制作します。彫刻刀で版を直接彫るだけです。しかし、単純であるがゆえにかなり職人的な技法でもあります。そのため銅版画の中では圧倒的にマイナーな技法になってしまっているのですが、エングレーヴィングにはエッチングやメゾチント、アクアチントにはない圧倒的な良さがあります。それは銅版画の生命線である「線」の強さです。強さといってもいろんな意味での強さです。エングレーヴィングは直接彫るがゆえに圧倒的に溝が深く、その分強烈な黒色をはなつ線が描かれます。その上、なめらかかつ繊細で、すばらしい。

6 エングレーヴィングは専用の彫刻刀である「ビュラン」を使って彫ります。これはトリッキーな道具で、初心者では手も足も出ません。

エングレーヴィングの銅版画の制作は「彫り」「研ぎ」「刷り」の三つの要素で成り立っています。刷りはともかくとして、研ぎ・彫りの要素は熟練が必要です。刃が研げていなければ彫ることもできないし、彫ることができなければ刃が研げていても彫れないといった具合で、総合的にある程度技術的にクリアしなければつくれません。

 

7 一番初めに作ったエングレーヴィングの銅版画。あれから8、9年たちます。エングレーヴィング一筋でずっとやってきました。いまだに思いますが、エングレーヴィングは難しい。

しかし銅版画の中でも圧倒的に特別な技法であり、価値があると思っています。最高級印刷の名に恥じない魅力と性質を持っています。

完。