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1 日常で、最も身近にある版画は、なんでしょうか。それは、紙幣です。お札は版画です。原版に彫刻を施し、プレス機で刷ることで、お札になります。紙幣は木版画でもリトグラフでもありません。銅版画の延長線上にある、鋼版画です。銅版画より固いので、刷りの耐久力があります。そして、エングレーヴィングの技法が、大昔から使用されています。左の画像は、千円札、野口英雄の肖像画。エングレーヴィングの線で表現されています。
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拡大。
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さらに拡大。この線、見覚えあります。エングレーヴィングの、インクのもっこりとした感じがわかります。造幣局の職人が彫刻したものです。圧倒的な技術です。私には、おそらく何十年たっても、到達できない技術力だと思っています。
線と線の感覚の幅は、だいたい0.2ミリくらいだと思います。線と線の交錯線の間に、点描が打ち込まれているのもわかると思います。微妙な明暗の違いを付けています。これも職人的な彫りの特徴です。目玉の黒目の部分は、まさにエングレーヴィングを象徴とするような、円を描く曲線です。エングレーヴィングの彫りは、鉛筆や筆の描画のように腕を動かして描くことはなく、彫刻刀は一切動かさずに原版を動かします。原版をくるくると回すことで彫ることができます。そのため、円を描くような曲線はエングレーヴィングの真骨頂といえます。
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肖像画以外にも、いろんな部分にエングレーヴィングの彫刻が施されています。紙幣の周りに描かれている、よくわからない装飾品のようなもの。
見覚えあります。こんな感じの表現です。エングレーヴィングの版画は。
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肖像画のスーツの部分。これもまた素晴らしいです。二重の交錯線で表現されています。よく見ると、太い線と細い線が交互に彫られています。これは、おそらく太い線を先に彫り、その後細い線を太い線の間に彫っていったと思います。これも職人のやり方だと思います。スーツの一面がすべて二重の交錯線で表現されていますが、線の太さや間隔を変えることで微妙な変化をつくり、肖像画の存在感を底上げしています。圧巻です。
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造幣局の職人は、一本の線を彫るのにものすごい時間をかけて彫ると聞いたことがあります。エングレーヴィングの彫りは基本的に、ゆっくりと等しい速度で彫るのが基本中の基本です。私も当然ゆっくりした速度で彫りますが、職人はさらに長いです。それだけ細密に、圧倒的な精度で彫りこみます。エングレーヴィングは線の修正はできません。なので、ミスは許されません。
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ひげやらくちびるやらの質感の違いを、限られた線表現でことこまかに表現しています。この辺は、まさに職人的なやり方のような感じがします。引く線の設計が記号的に完全にできてしまっているような感じです。
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髪。交錯線は使わずに、一重の、線の連なりで表現しています。線と線の間隔はさらに狭く、多分0.1ミリ以下くらいでしょうか。
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線だけで、髪の質感と立体感を表現しています。線を太くしたり、間隔を狭めたり。えげつないです。
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これは、富士山。これもエングレーヴィングですね。人物の肖像画と比べると、明らかに「つまんねーなはやく人物の彫りがしたい」みたいな空気感が伝わってきます。勘ですが。もっとがっつり彫りたいけど、背景だし全体的に薄いしみたいな感じで、細い線を余儀なくされて抑えている感じです。
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こちらは、五千円札。草、なにかしらの、花です。
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これ、あんまりいい彫りじゃなくね、って思います。結構手抜きな感じがしてなりません。
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最近私が制作した銅版画。適当に彫った草ですが、ちょっと似てます。
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樋口一葉の髪。エングレーヴィングです。これぞエングレーヴィングだと言わんばかりの、精密かつ強靭な線。彫っている時は、さぞ気持ちよいだろうと思います。
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樋口一葉の着物の部分。二重の交錯線で表現されています。野口英雄のスーツの部分と比べて、こちらは線の間に細い線は彫られていません。なぜだろう。線の設計が、とても興味があります。
この二重の交錯線ですが、一重目と二重目、どちらが細い線でどちらが太い線でしょうか。
多分、細い線が一重目で、二重目が太い線だと思います。二重目の交錯線は、私の経験上、太い線になる。
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ほれぼれする曲線と線の連なり。すさまじい。
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このなんかよくわからない装飾品。こんな感じの表現、わかるわ~。
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私の銅版画。こんな、よくわからない装飾品みたいなものの彫りは、エングレーヴィングでやりやすい。
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これだ。これ。あれだ。
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そうそう、これ。
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顔。よく見ると線ではなく点のように、ポツポツとライン上に彫られていると思います。
これは、よくわかりません。多分通常の彫刻刀を使用していないと思います。通常の刃や菱形の刃ではないです。なんか特殊な刃を使用していますね。一部。
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紙幣の原版らしきもの。詳しくはわかりません。ただ、いつか見てみたいです。
紙幣はエングレーヴィングの銅版画の、職人の彫りとして究極系です。そのほかに私は絵画系の彫りをする版画家を知っていますが、その彫りもまた、絵画系の彫りの究極です。
私は、どっちも無理です。こんなもん私の素質では、不可能。でも何かしらいろいろ試して、私だけの打開策を考えようと思っています。