銅版画 No142 (製版~刷り)

1 製版 銅板です。サイズは165×120センチ。銅版画のサイズとしては、小さめ。しかしエングレーヴィングの彫りをする上では十分です。

2 彫り アウトラインをかっちり彫っていくスタイル。表現の幅が狭くなる感じがするので、もう少し工夫したほうがいいかもしれない。変化をつけていこうと考えてはいます。

3 彫り エングレーヴィングの彫りの速度はとにかく遅い。精密な彫りができる反面、速度が遅い。勢いやノリでガツガツ進めることは、この技法では絶対に不可能です。2、3日程度たっているので、版表面は変色します。

顔の拡大。エングレーヴィングの線の特徴として、線の溝のふちに「バー」と呼ばれるものが出てきます。それを、「スクレイパー」という専用の道具で削り取ります。線を彫るたびにバーは必ず出てきます。しっかりと処理しないと、刷りに支障がでてきます。この画像だと、口の部分にバーが残っています。

線の溝の断面図。バーが残ったまま刷ろうとすると、インクが線にしっかり詰まらず、線が途切れたりします。

4 彫り

5 彫り

6 彫り 9割ほどの彫りが終わっています。

ところどころ、銅板の表面が剥げています。これはスクレイパーでバーを削りとる時にできる傷みたいなもんです。これは最終的に研磨剤で磨けば消えます。

エングレーヴィングはエッチングやメゾチント・アクアチント系などの技法と比べて、格段にごまかしが効きづらいと思います。技術が下手であれば、それ以上のものにはなりません。版画は、製版が技術的に劣っていても「刷り」の段階で結構ごまかしがきくので、そういうところはエングレーヴィングの難点です。しかし、その反面、技術がしっかりとしていれさえいれば、原画や画に関する荒さをごまかせてしまう強みもあります。

7 彫り 完成形 製版の日数は7日~8日程度かかるが、5日で終わった。

エングレーヴィングはとにかく原版が様になる。ほかの版種・技法のものと比べても、圧倒的な美しさ、きれいさを持つ。もともと貴金属を彫金するための技法なので当然ともいえる。

線の溝は直角に凹んでいて、版の傾け具合で光がいろんな方向に反射する。線の連なりや交錯線が光の反射を際立たせるので、原版がいっそうキレイに見える。実際に刷った時、なぜかがっくりするのが、この現象が原因だと思う。

8 版を磨く 銅板の表面を研磨剤で磨く。荒いもの→細かいものの順で磨いていく。

9 製版終了 版の表面を磨き終え、刷れる状態になりました。表面は鏡面状。

原版は二次元でなく、三次元の物体なので、美しい。線の溝が版の表面に凹凸を生み出す。光がさまざな方向に反射する。

10 刷り インクを詰めて、プレス機の鉄板に置く。

版の表面に、「油膜」というものが付着しています。これはインクを詰めた後、表面についた余分なインクをふき取る時、ふき取れなかった薄いインクで、本当はしっかりとふき取らなければいけないのですが、残ってしまっています。前回の銅版画からインクを変えたせいで、インクのふき取りの感覚がわからなくなっています。

というより、今回のインクはふき取りずらい。

エングレーヴィングは線が強い。エッチングと比べても明らかに強く、なめらかで、繊細です。そのため画の存在感も圧倒的です。ものすごい近くで見ても、線のにじみがまったくありません。

11 刷り 版の上に紙を置いて、プレス機に通す。

12 刷り上がり。 空白部分にちょっとグレーな感じが出ています。これは、ふき取り切れなかった余分なインクが出てしまっています。これが油膜です。しっかりと今まで通りにふき取れていれば、紙に全くインクが付着していない状態=真っ白になります。エングレーヴィングの場合は、基本的にそれがベストな刷りです。

ふとももの部分の線の連なりの部分。何本かの線が途切れています。これはインクがしっかりと詰め込まれていないからです。

インクが変わると詰込みの感覚が変わって、調子が狂います。エングレーヴィングでこのミスは、はっきり言って最低です。強みを潰してしまっている。

 

太い線のほうが、インクは詰まりやすいです。細く浅い線は、インクの詰め方やふき取りをさらに慎重にやらないといけません。

インクがいまいちで、ちょっと刷りがキツイ。どうも粘りが強く、インクの粒子が細かい。ような気がする。エッチングとかメゾチントみたいな、刷りの段階でもあれやこれやといろいろ実験するタイプの技法に向いている、そんなインクだと思います。