ロシアの紙幣の高画質画像を入手したので、観察します。この画像の紙幣はロシアで使用された500рублей(ルブレイ)と呼ばれる紙幣らしいです。詳細は、さっぱり不明。1912年に発行されたそうです。この紙幣も、エングレーヴィングの技法で制作されています。この紙幣はおそらく画面上に描かれているすべてが、エングレーヴィングによるものだと思います。デジタル印刷技術がまだ無いころなので、当然といえば当然か。この紙幣は現代で使用されている紙幣の大きさより少し大きいです。だいたい1.5倍~2倍くらいの大きさです。それでも驚異的な技術を垣間見ることができます。
右半分。縦10センチ程度の大きさ。圧倒的な密度と精度を感じられます。実物を見たい。原版を見てみたい。
拡大。
さらに拡大。美しい・・・。顔の造形も技術も、すべてが美しい・・・・!考えられない、圧倒的な技術だと思います。エングレービングの線の特徴は強靭で細密な曲線です。いくらなめらかな曲線を描けるといってもこんな柔らかな質感を表現できるもんですかね。美しい・・!目がすごい。黒目の部分は、どうやら線で描かれているようには見えません。超細密な点刻による表現でしょう。実物を見たい。実物がほしい。
日本の千円札と比較してみると、彫りの雰囲気が結構違います。やっぱり日本の彫りは固い感じがします。日本の紙幣は線の間隔や連なりの統率がすごく彫りの精度が高い反面、柔軟な感じがないような、堅苦しい感じがあります。黒目の部分は曲線で描かれていますね。
ロシアのほうは、柔らかい。線と線の間隔はちょっと穏やかな感じ。余裕がある。
どっちもよい。どっちも好き。
腕。エングレーヴィングの腕の表現なんてだいたい似たようなもんです。線の構成はだいたい同じ。にしてもすげぇ・・・。線だけでなく点描もまばらに駆使してます。微妙な明暗もしっかりと表現していて、隙がない。
見たところ、全体を見てもそうですが、二重の交錯線までですべての明暗を表現しているようです。三重の交錯線が見当たらない。画像の赤色で囲った部分なんて、三重の交錯線を入れたくなりそうなもんですが。線の太さを変化させて違いを付けています。経験上、こんな風にやりたくてもうまくいかん。
赤色の囲いが二つありますが、その部分は線を太くして強い黒が表現されている箇所です。この囲いの部分が微妙に上下にズレている。腕の部分の陰影がそうなっているのならそうするでしょうが、こういう微妙なところをこんな風に違いをつけられるもんかね。ありえん。
下半身の部分。布。私もよく彫りますが、こんな風にはならねぇ。
拡大。
さらに拡大。おかしい。これだけ拡大しても平面にならないというか、立体感を感じる。線表現で、しかも超細密で、ここまでやられたらたまったもんじゃない。線と線の間隔は、相当狭い。多分0.1ミリくらいですか。彫ってみればわかりますけど、こんなえげつない間隔で線を彫り続けてたら精神がおかしくなりますよ。
盾のようなもの。エングレーヴィングの特徴一番感じられた部分。縦のエッジが鮮明に表現されているのは、エングレーヴィングの線の特徴です。エッチングやメゾチントではもっとやんわりとしたぼけっとした感じになってしまします。アウトラインに『カチッ』と線を決め込めるので、こういう鮮明な感じで描くことができる。
首。あわわわわわ。エロい。そして、すごい。
二重の交錯線で表現されています。見た感じ、一重の線=ハッチング部分は線の太さを変化させず、二重の交錯線で太さに変化をつけている。
500が描かれている・・・何か。なんだこれは。
拡大。 よく見ると数字の背後に細かい線が。
さらに拡大。これもエングレーヴィングの線。こういう幾何学模様はエングレーヴィングの十八番。どれだけ機械的な、冷徹な、感情のない正確無比な線を引けるか。こういう表現はエッチングやらメゾチントやらでは確実に無理です。
紙幣の実用性の側面から見ても、偽造防止のためになります。
現代の紙幣にもこういうくねくねとした線ありますが、デザインの由来はエングレーヴィング表現のなごりでしょう。ただ、現代はこういうくねくねのほとんどはデジタル印刷ですね。色ついてるし、インクが盛り上がってないし。
正直、こういう軽い感じの表現があるとほっとする。私にもできそうだと感じるから。
こんだけ技術力に差があるとどうしていいかわかんねーんだよ。
ああ、こういう軽い感じの表現は落ち着く。なんかどことなくできそうな感じがする・・!
でもよく見ると単純な線のように見えて、精度は高い。
拡大。この辺も地味にすげぇ密度で彫りこんでいる。拡大してみるとああこんなもんかと思いますが、実際に彫ってみればこういう密度でこれだけの曲線を彫るのは大変です。結構、というかかなりの時間を必要とする。
イイネ( ゚Д゚)!こういうお手軽~な感じ、ほっとする。私でも、なんかやれそうだ!と思えます。にしても、どれだけ拡大しても線が途切れてたり、はみ出したりは一切してないところに職人の本気度がうかがえる。まったく油断も隙もない。これが本物の職人か。
私の版画。
拡大。こうしてみると負けてねーぞ。
自分でもやれそうな感じが、好きです。
へこまなくて済む。
棒の先っちょ。モチーフの実際のものはもっと複雑な形をしている思うんですが、線で表現するために省略していると思います。複雑なモチーフもありとあらゆる方法で工夫し、表現されています。
ものすごい隅の部分。手を抜いている感じがない。線の量こそすこし減っているような気がするが、適当な線は一切引かれていない感じがします。
紙幣左下部分。これぞ、エングレーヴィングだ。こんなカチッとした表現、エングレーヴィング以外でできません。デジタル技術であれば簡単にできてしまう形ではあります。
拡大。いかんなくエングレーヴィングの性質を生かした曲線です。球体の表現は、様々な画家のエングレーヴィング作品を見ても分かりやすく同じですね。円を描くような曲線。デューラーのエングレーヴィング作品にもこんな感じの表現がありました。
右半分だけで長くなってしまったので、左半分は次回にします。こんなもんいつか作ってみたいもんです。摸刻にしろ、いつかかならず彫ってみようとは思っています。前半、完。後半(左半分)に続く