1 製版 プレートマークを作り、版を準備します。版のサイズは120×90(mm)、厚さ1(mm)。エングレーヴィングの線の溝は深いので、厚めの銅板のほうが良い。
2 彫り アウトラインをみっちり彫る。ある程度、原画のイメージに沿って彫り進める。この段階であれこれ迷っていると彫りがうまくいかない。一度彫ってしまえば修正ができない一発彫り。
2 今回意識したのは、線の強弱である。
強い線、弱い線、溝の深い線、浅い線。
彫刻刀の刃の太さによって、彫られる線の太さは変わるが、同じ太さの刃でも力の入れ具合や角度でも変わる。特に、力の入れ具合で線の強弱を変化させることを意識した。
3 明暗を簡単に表現したければ、交錯線にすることが一番手っ取り早い。しかし今回は交錯線はほとんど二重までにして、線の太さを変えて明暗を表現することにしています。
帽子の裏側の影の部分。裏側の一面はだいたい黒ですが、その中の黒の階調は線の太さで変化をつける意識をしています。が、彫るだけで精一杯で制御しきれていないです。
4 エングレーヴィングの線の特徴は、左の図のように丸みを帯びた菱形のような感じになることです。エッチングのように最初から最後まで均一な線ではありません。刃を銅板に突き刺して彫り進めるので、線の初めは細く、彫り進めていくうちに太くなっていきます。職人はこの性質を利用して、微妙な明暗を表現しています。
腕の部分の拡大。肌の部分の陰影は柔らかく微妙な階調で作らなければいけないので、交錯線を重ねるよりも線の太さを変えたほうが適している。左から右へ、弱い線から強い線と変化をつけている。
かわいい。
重要なところから彫り進める。人物→背景の流れ。
背景の彫りも線の強弱で変化をつけるようにする。
エングレーヴィングの真骨頂は曲線である。しかし、それと同時に直線もまた真骨頂と言える。エングレーヴィングの線はとにかく鋭い。曲線だろうと直線だろうと、とにかく鋭い。
原版はこの角度が一番美しい。凹凸ができているので、三次元の物体として見える。線の溝に光が反射して、見る角度によって画の見え方が変わる。
美しい。エングレーヴィングはもとをたどれば貴金属の彫金技術なので、刷り上がりの版画よりも、原版そのもののほうが美しいのは当然といえる。
この角度、あらいいですね。
今回は線の溝が全体的に深く、内部に余白がほとんどないため刷りが難しいと思われる。
彫り 終了。
製版 表面の研磨。刷るために表面を研磨する。研磨して映えるタイプと映えないタイプがある。彫りの質でそれが変わる。多分しっかりとした職人的な彫りであれな映えるタイプだと思う。今回は映えないタイプ。
この角度、イイ。最高にきれい。銅版画のオレンジ色の階調と、細密な線表現が組み合わさって、あらいいですね。原版を写真でとると、カメラの角度次第で雰囲気が全然変わる。
インクを詰め、プレス機に置く。
紙を置き、プレス機に通す。紙に凹凸ができる。
紙をめくる。インクが付着して、版画が刷りあがる。プレス圧が強いので、原版と紙の間にヌメっとした密着感が感じられる。
刷りあがり。 刷ってからある程度時間がたつと、まぁこんなもんかと思えるが、刷った直後はたいていの場合、ガックリくる。原版のイメージと実際に刷り上がった画の違いに精神がついていかない。後から見れば、原版も刷り上がりもただ画が反転しているだけで、違いはあるはずもない。ただ、原版は三次元的な要素が強く、視覚的に良く見えるからしょうがない。
イイですね。厳密には版画も三次元である。インクが盛り上がっているので。ただ、それを知るには表面を触ってもっこり感を感じるしかない。原版のように角度で光が反射するということはない。
頬の部分の赤らみは、かわいさを生む。弱い線。
刷りの途中でインクを変えた。左が通常使用するインク刷ったもので、右が急遽使用しているインク。どちらも版画用のインクではあるが、性質が異なる。ぱっと見わからないが、同じ黒でもちょっと違いがあったり、線がきっちり出ていなかったり、油膜がついていたりと結構印象が変わる。
こちらが通常しようするインク。このインクは私が最もエングレーヴィングに適していると思っているインク。インクがふき取りやすく、線がきっちりとでて、余白が真っ白。表現としてはものすごいシンプルで、悪く言えば変化がない。刷りが比較的楽で、安定している。ただ、このインクを作っている会社がもう潰れたらしい。
急遽使用しているインク。↑の刷りと比べて、全体的に紗がかかっているような感じ。はっきりいってエングレーヴィングの刷りに適してないインク。線の鋭さを生かしきれない。でもボカシが効いていて、画のもろさ、彫りの未熟さなどをぼかせてしまうというメリットはある。どちらにせよ、あまりいいとは言えない。
ふき取りがうまくいかず、ふき取り残しのインクが出てしまっている。エングレーヴィングの刷りでこういう荒さは致命的である。エッチングやメゾチントでは、こういう要素も表現の一つとして、逆に利用することもできる。エングレーヴィングではこんな要素は全く必要ではなく、鋭い線を鈍くするだけである。ただ、私の場合、気にはなるが、そんなことはどうでもいい。
こちらは通常のインクのほう。線のエッジもくっきり明快。とはいえ、パッと見ではどちらも似たようなもの。
刷り 終了。100枚。正直、100枚はしんどい。ただ、エングレーヴィングはほかの技法と比べて刷りの耐久力が圧倒的に高い。溝が深いので、多分500枚以上刷っても版は壊れない。エッチングやメゾチントは溝が浅いので版がもろく、せいぜい50~100枚で版は摩耗され使い物にならなくなる。と思われる。こういう点もエングレーヴィングという技法の特徴であり、強みである。