164作目 銅版画
製版
アウトラインを彫りこむ。あまり厳密には彫りこまない。
最初はかなり軽い気持ちで彫った。
あまり複雑な彫りをしないつもりで軽快に進める。
さして工夫しない、シンプルな彫りで進めた。
実物の彫りとは違う、独自の線構成で彫る。
そのほうが楽だし、線も生き生きとし、かつのびやかに彫れる。
縦横直線の交錯線、直線、曲線でそれぞれの枠内を彫る。同じ一層の線でも、直線と曲線で表現に若干の変化ができる。
紙幣の背後の部分は独自でのびのびと彫る。
曲線をくねくねと彫るのは、非常に得意なのでスルスルと進む。
強い線、中の線、弱い線と使い分けて彫ると、奥行ができておもしろい表現になる。
萌えキャラ部分の彫りに迷いあり。
人の顔はなにより力を入れたいところである。
が、いかんせん萌えキャラの場合、なにより重視すべきは【かわいい】ということである。そのため半端なこだわりはかわいさを削り取ってしまう。
結論からいうと、今回はブレた。あくまで紙幣的な表現を突き詰めるという前提のもと、かわいい
彫りを構成すべきだった。
日本円によくあるこの空白部分は、なかなかおもしろい。銅版画で非常によく生きる。
線の鋭さ・精密さと、大胆な空白の相性がいい。
途中から中途半端に紙幣の彫りをしだした。その結果、ややかわいさを損なった。
目はいい。肌の彫りが違う。
目はより深みをだすため、何十層も彫りこんだ。
そのやり方を肌にまでやろうとすると、おかしなことになる。
目だけに抑えておくべきだった。
こうみると別に悪くない。
版を磨き、製版終了。
インクを詰める。
全体的にみて、すばらしい。
あまり実物の二千円札を意識せず、独創で彫っていったので、線がのびやかに彫れた。
萌えキャラがいまいちではある。
だが全体的に見れば、非常に良い。
彫り、刷りともにすばらしい。
健やかに彫れた線は、非常に安定した刷りを実現する。
いままでの経験が生きている。慣れてきている。
独創がそれを大きく加速させた。
カッチリとできている。実物に無理に寄せないことで、中途半端な線を彫らずに済んでいる。迷いがない。すばらしい。
萌えキャラ部分だけが惜しまれる。
しっかりと刷れたものは、非常に良い。
しっかりとした版と、ちゃんとした刷りが合わさると、非常に良い版画が生まれる。
見てください。このインクのもっこり感。まさに銅版画特有の性質であり、独特な質感である。素晴らしい。
インクのもっこり感 最高。
ぜひ、実物をお手に取ってみてください。これだけ大胆なもっこり感は、銅版画だけのものです。
さらにいえば、エングレーヴィングだけのものです。
●銅版画の道具紹介3 ビュラン(1)
銅板に線を彫るために使う「ビュラン」という道具。
一概に銅版画といってもいくつか種類があり、それごとに使う道具も違ってくる。私が制作で使用する技法の「エングレーヴィング engraving」はこの道具を使う。
ビュランにもいろんな形のものがあり、今回はアメリカ製の刃が折れているビュランを紹介します。
刃の太さも大から小まであり、太い刃は太い線が、細い刃は細い線が彫れる。 刃は彫るたびに徐々に劣化していくので、そのたびに砥石で研ぐ。研ぐと、刃は当然削られていくので小さく短くなっていく。 刃の長さや角度次第で彫りの感覚が変わる。
ビュランを銅板に、刃先を食い込ませるようにして突き刺し、彫る。
ビュランの刃はしっかり研がれていなければ、きれいな線は彫れない。だから毎回ちゃんと研いで刃の整備をしておかなければいけない。
刃の研ぎは、エングレーヴィングで制作する上での最も重要な基礎である。
私がまだエングレーヴィングを始めたばかりのころは、研ぎにたいそう苦労した。非常に職人的な技術が必要で、とにかく経験を積むしかない。
いまでは何も考えるまでもなく最小限の研ぎで済む。
しっかりと研いだビュランを使って銅板を彫ると、その触感はまるで粘土を彫っているように感じられる。